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概要

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?科学的な視点から、食の安全・安心について学ぶコラムです。今月のテーマオーガニックと慣行栽培畝山さんに聞く!有機栽培を多面的に見ると…農産物に「オーガニック(有機)」と表示してあるものを見かけることがあります。オーガニック栽培のものを選んでいる、という人もいるでしょう。一般的に、化学肥料や化学農薬を使っていないから、慣行栽培のものより安全だと宣伝されている場合が多いようですが、有機栽培農産物の認証を監督している農林水産省や米国農務省は、公式には安全性については慣行栽培と差はないとしています。英国では食品基準庁が、有機栽培農作物は慣行栽培に比べて安全性や栄養価に優れているわけではないという研究結果を発表しています。有機栽培農作物は、残留農薬だけを見れば慣行栽培のものより少ないものの、作物に病害虫が発生した場合に効果的な薬剤が使えないので、天然の植物に含まれる有害物質やカビ毒についてはむしろ頻繁に検出されています。また雑草も多くなるので、トロパンアルカロイドという有害物質を含む植物の種子が一緒に収穫されることもあります。それでも有機栽培を推進するのは、農業による環境負荷を減らすためだといわれていますが、それも科学的に立証されているわけではありません。有機農業だと単位面積あたりの収穫量が減り、同じ量の農作物を得るために、より広い面積の自然を破壊することにつながっているケースもあります。持続可能性や環境影響はどのような指標で評価するのかによって結果が違ってくるので、現在も学術的には論争が続いている分野です。正しい理解と価値観を大切に有機農業の提唱者は19世紀の欧州の思想家であり、日本のような気温が比較的高く、雨の多い気候での稲作中心の農業のことは考えてもいなかったでしょう。日本でも農林水産省が定める「有機農業推進法」で有機農業の取り組み面積の割合を引き上げる目標を掲げていますが、実際の有機栽培面積は目標の半分以下の割合にとどまっています。そのわりには「有機」と宣伝をしている商品を見る機会が多いのはどうしてでしょうか?その理由のひとつは、海外から輸入しているからです。(海外から燃料を使って運んでしまうと、二酸化炭素排出量で表現される環境への負荷は大きくなるので、「有機」の理念にはそぐわないはずなのですが…。)そしてもうひとつの理由は、有機JASに認証されていないのに、「有機」と称している場合があるからです。例えば減農薬栽培と有機栽培とは異なるもの、ということを消費者も生産者もあまり理解していない場合があると報告されています。情報をしっかり吟味した上で、有機農作物を買うかどうかは価値観によります。健康のためには、有機栽培や慣行栽培にこだわらず、いろいろな種類の野菜や果物を毎日の食事にふんだんに取り入れることが最善です。一般に流通している野菜や果物の安全性を心配する必要はありません、おいしくてお手頃な旬のものを安心していただきましょう。教えてくれるのは…うねやま畝山ち智か香こ子さん国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長東北大学薬学部卒、薬学博士。生化学、薬理学を専攻して食品や医薬品の安全性研究に従事し、2003年以降食品中の化学物質の安全性に関する情報収集と提供を主に行なってきた。主な著書は、「ほんとうの『食の安全』を考える-ゼロリスクという幻想」(化学同人)「『健康食品』のことがよくわかる本」(日本評論社)など。08コーポロ2019年9月号